会社決算は設立のときに「定款の事業年度」で決める。
事業年度の決め方は「設立日から決算日までが1年以内で最長期間になる」ように定める人が多いでしょう。
その決め方だけでは決算日に隠されたリスクを回避できないかもしれない。ちゃんと決算リスクを理解したうえで、正しい決算日を決めることが起業を有利にします。
今回、この記事でわかることは…
記事のテーマ
- 会社設立後に起こる「決算に隠されたリスク」を解説します
- 決算リスクを回避する「会社決算の決定手順」を解説します
- 会社の決算日を「決定する又は変更する時期」を解説します
以上のとおり「会社決算の決め方」にまつわる必要な知識をまとめました。
ひとつでも気になれば、ぜひに最後まで読んでほしい。
きっと新しい発見があります。
- 決算日に隠されたリスクとは?
- 決算日に隠されたリスクの回避
- 会社決算を決めるための手順
- 決算日の決定又は変更の時期
- 会社決算の決め方のまとめ
決算日に隠されたリスクとは?
決算日に隠された3つのリスク
決算日に隠されたリスクは大きく分けて3つのリスクがあり、会社設立後の経営に大きく影響します。
具体的には...
- 繁忙期決算のリスク
- 税務調査のリスク
- 消費税課税のリスク
以上の3つのリスクを理解したうえで、自分の会社に適した決算日を決める必要がある。それにより会社経営の負担を軽減することができます。
正しい決算日を決めるためには?
正しい決算日を決めるためにはプロセスがあり、次の3つのプロセスを経て正しい決算日を決めて欲しい。
具体的には...
初めに決算リスクの回避方法を把握すること。次にリスク回避の優先順位を把握して決算日の決定手順を守ること。最後に会社決算の決定又は変更には時期があること。
この3つのプロセスに通じて正しい決算日を決まることが肝心です。
決算日に隠されたリスクの回避
リスク回避1「会社の繁忙期を決算日にしない」
会社の繁忙期と閑散期を把握して自分の会社に適した決算日を見つけよう。
1.繁忙期を決算日にしないこと
会社の繁忙期を決算日にすると決算作業に時間が取れない。そのために繁忙期を避けて決算するのが一般的です。
例えば...
小売店では2月・8月のどちらかを決算日にする会社が多い。
2月・8月は業界用語で「ニッパチ」と呼ばれ小売店の閑散期に当たるからだ。
ニッパチ(閑散期)に決算する理由
決算では利益確定のために「商品の棚卸」をしなければならない。
商品棚卸は実地在庫数を調べて集計する必要があり、比較的に商品の動きが少ない閑散期が作業効率的に有利です。
小売店の多くがニッパチ(閑散期)を決算日にする理由は、データに誤りなくスムーズに決算作業を進めるためだ。
業界により繁忙期や閑散期は異なる
自分の会社の繁忙期と閑散期がいつ頃なのかを調べることが大切だ。
閑散期に決算することで「余裕がある状態で決算作業を進められる環境」を準備することが肝心なのです。
自社の所属する業界の繁忙期と閑散期を調べておこう!
2.繁忙期を事業年度の前半に設定すること
繁忙期を事業年度の前半に来るように決算日を設定することで、会社経営を有利に進めることができます。
具体的には...
- 繁忙期が前半に来ることで1年間の売上のメドが立つ
- 売上メドにより決算まで時間をかけて節税対策できる
- 売上メドが悪い場合は売上アップの施策を修正できる
売上予測と節税対策ができる
繁忙期を事業年度の前半にすることで売上のメドが立ち、決算まで時間をかけて節税対策ができる。
具体的には「売上アップのための再投資」「経営効率化のための設備投資」「従業員還元のためのボーナス増加」など、計画的に節税対策を考えることができます。
売上改善の施策を考えられる
繁忙期の売上が予算より悪いときは、繁忙期が前半なので売上改善の施策を考える時間が作れる。
具体的には売上が減少した原因を分析して「来店客数の増加」「商品ラインナップの見直し」「機会損失の改善」など、下半期に向けた売上アップのための作戦を再構築できます。
事業年度の前半に「繁忙期」を決算日に「閑散期」を設定することが理想である。
リスク回避2「税務調査が入りやすい決算日を選ばない」
会社決算と税務調査は関係があるので、税務調査が入りやすい決算日を選ばないことが大切です。
1.会社決算と税務調査の関係性
会社の決算日によって税務調査の時期が決定する。決算日と税務調査の関係は以下のとおりになります。
会社決算と税務調査の関係
会社決算の時期 | 税務調査の時期 |
2月、3月、4月、5月 | 秋の税務調査(7月から12月まで) |
6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月、1月 | 春の税務調査(1月から6月まで) |
秋の税務調査の傾向
秋の税務調査は7月から12月に実施され、調査対象は2月から5月決算の法人だ。
秋の税務調査の特徴は「税務調査の件数が多いこと」と「厳しく税務調査が行われること」の2点につきます。理由は「秋の税務調査は税務職員の人事査定に大きく影響する」ので、国税調査官も必死に税務調査に励むためだ。
秋の税務調査の対象となる決算日(2月~5月決算)は避けた方が税務調査リスクが軽減されます。
2.税務調査が入りにくい決算日を選択しよう
春の税務調査は税務調査が入りにくいので、以下の月から決算日を選択することで税務調査リスクを軽減できます。
具体的には...
決算日:6月、7月、8月、9月、10月、11月、12月、1月
春の税務調査の傾向
春の税務調査は1月から6月に実施され、調査対象は6月から1月決算の法人だ。
税務署にも繁忙期(1月~3月)があるので調査件数は減少します。4月以降から次第に調査件数が増えていく傾向がある。
税務署の人事異動
税務署の人事異動は毎年7月であり春の税務調査は人事査定に影響がないので、春の税務調査は消化試合の意味合いが強く調査も優しくなる傾向がある。
特に会社決算を「11月、12月、1月」の中から選択することで税務調査が入りにくい傾向が強い。
リスク回避3「消費税対策のために事業年度を最長に設定する」
会社決算と消費税免税期間は関係がある。設立初年度の事業期間を長くするほど免税期間も伸びます。
1.消費税の課税事業者の可否判定
消費税を納めなければならない会社は以下の表に当てはまるかどうかだ。以下の表に該当した会社は消費税の確定申告と納税が義務になります。
消費税の課税事業者の可否判定
判定時期 | 判定内容 |
第1期(設立1年目) |
|
第2期(設立2年目) |
|
第3期(設立3年目)以降 |
|
多くの会社が第3期以降から消費税を納める
中小企業の半数以上は「第1期」又は「第2期」から売上高1,000万円を超えるケースが多い。
したがって、上記表のとおりに「第3期」又は「第4期」から消費税の納める課税事業者になります。
どれだけ「消費税の免税期間を延ばせるのか」が消費税対策のポイントになる。
2.会社決算は消費税の免税期間が延びるように決定する
第1期(設立1年目)だけは事業期間を1年以下に設定できる。理由は設立定款で決算日を自由に決めれるからです。
例えば...
- 設立日が4月1日で決算日が3月31日の場合:事業期間は最長の1年間となる。
- 設立日が4月1日で決算日が12月31日の場合:事業期間は9ヶ月間となる。
設立初年度の事業期間は最長1年に近づけるように伸ばそう
中小企業の大半が設立初年度の事業期間を最長1年になるように決算日を設定する。理由は消費税の免税期間を少しでも長く延ばすためです。
しかし、決算日の設定は消費税の免税期間だけで決定するものではない。
リスク回避1「会社の繁忙期を決算日にしない」とリスク回避2「税務調査が入りやすい決算日を選ばない」を考慮した上で、どれだけ設立年度の事業期間を延ばせるかがポイントになります。
決算リスクを回避するため、総合的に判断して決算日を決めよう。
会社決算を決めるための手順
決算リスク回避の優先順位
決算日の決定手順を知るためには決算リスク回避の優先順位を決める必要があります。
決算リスク回避の優先順位は...
- 優先順位第1位「会社の繁忙期を決算日にしない」
- 優先順位第2位「税務調査が入りやすい決算日を選ばない」
- 優先順位第3位「消費税対策のために事業期間を最長に設定する」
決算リスク回避の優先順位の考え方
最初に「会社の繁忙期を決算にしない」を第1位にしたのは、繁忙期に決算作業するのが物理的負担が大きいからです。
次に「税務調査が入りやすい決算日を選ばない」を第2位にしたのは、「税務調査対応の時間と労力」「税理士報酬の追加費用」「修正申告に伴う追徴課税のリスク」が会社経営の負担になるからです。
最後に「消費税対策のために事業期間を最長に設定する」を第3位にしたのは、遅かれ早かれ消費税の納税義務は発生するため、第1位や第2位と比べて重要度が劣るからです。
優先順位第1位から第3位の順番で判断していく作業が決算日の決定手順になります。
決算日の決定手順の具体例
決算日の決定手順の具体例を参考にして、実際に決算日の決め方を解説します。
具体例は...
飲食店をオープンするために株式会社を設立する予定。株式会社の設立予定日は4月1日であり、飲食業界の繁忙期を調べたところ4月と12月が忙しいと判明した。
設立時の定款を作成するにあたり、事業年度の決算日をいつに設定すべきか判定せよ。
優先順位第1位「会社の繁忙期を決算日にしない」を判定
判定ポイントは繁忙期を決算日から外すことだ。
具体例から飲食業界の繁忙期が4月と12月なので、それ以外の月日を決算日にすることが妥当です。
優先順位第2位「税務調査が入りやすい決算日を選ばない」を判定
判定ポイントは税務調査が入りにくい決算日を選ぶことだ。
税務調査が特に入りにくい「11月」及び「1月」が決算の候補日として絞られます。
優先順位第3位「消費税対策のために事業期間を最長に設定する」を判定
判定ポイントは「11月」と「1月」のどちらが設立初年度の事業期間を最長にできるかだ。
設立予定日が4月1日なので1月決算の方が事業期間10ヶ月と最長になります。
結論として1月31日が決算日として妥当だと判断できる。
優先順位第1位から第3位を合理的に判断して決算日を絞る作業が決定手順となる。
決算日の決定又は変更の時期
会社設立にあたって決算日を決める時期
会社設立にあたって決算日を決める時期は定款で事業年度を定める時になる。
具体的には...
以下のとおりに定款の条文で決算日を定めることになる。
(事業年度)
第〇〇条 当会社の事業年度は、毎年〇月〇日から翌年〇月〇日までの年1期とする。
会社設立時の定款の条文で決算日が確定する
定款の事業年度に関する条文では、事業期間の開始月日と終了月日を決める。
事業期間の終了月日が決算日となります。
決算日は会社設立時の定款作成時に決定します。
法人設立後に決算日を変更したい場合
法人設立後に決算リスクを回避したいなどの理由で決算日を変更したい場合もあるだろう。会社の決算日は「株主総会の定款変更の決議」により変更できるので覚えておきたい。
決算日の具体的な変更手順は...
- 株主総会を開催して定款の「事業年度の変更案」の承認を得る
- 承認を得た結果を「株主総会議事録」に残して会社で保管する
- 株主総会議事録の「事業年度の変更案」に則って定款を改定する
- 税務署と地方自治体に事業年度を変更した旨の異動届を提出する
決算日の変更時期は株主総会の承認を得た日になる
決算日の変更時期は株主総会で「事業年度の変更案」の承認を得た日になる。
実際には株主総会議事録の承認を得た日付で、定款(改定版)や異動届出書の内容を作成します。
実際の税務手続きは顧問税理士に相談してみるとよいでしょう。
決算日の変更は株主総会などの最高機関で新たな決算日を決める。
会社決算の決め方のまとめ
会社決算の決め方は単純ではない。
中小企業の多くは何も考えずに設立月から最長1年になるように決算日を定めます。それでは決算日に隠されたリスクを回避することができません。
あらかじめ決算リスクを把握して正しい決算日を選択する。
そのためには決算日の決定手順を把握する必要があり、決算リスク回避の優先順位を守りながら合理的に決算日を決めることで会社経営が有利な環境になります。
起業に成功する経営者は「どのように経営リスクを減らし有利な環境で勝負できるのか」を常に考える。
あなたも起業の成功を目指すのであれば、まず会社決算の決め方から考えてみましょう。
会社経営を有利できる環境は起業する前から始まっているのです。