今まで税務調査を受けたことがない会社も多いだろう。そのために税務調査や税務組織の実態は意外と知られていない。
国税庁の調べでは、平成29年度で法人税の申告総数は289万件。平成30年度で法人税の調査実績は9.9万件である。その実績のうち7.4万件の会社が申告もれを指摘。調査全体からみて74.7%の会社で追徴税額が発生する結果となった。
次に国税庁の調べの数値をもとに税務調査を受ける確率を計算する。
法人税の申告総数では調査確率は3.4%と低い結果となった。しかし、黒字の申告総数(99万件)に限定するとその確率はなんと10.0%まで数値があがるのだ。そうなると黒字経営する10社のうち1社は税務調査を受ける結果となる。
これはもはや会社経営においての隠れたリスクと言わざるおえない。
したがって、申告総数で税務調査の確率が低いからと侮っていると、のちに取り返しのつかない結果を招きかねない。いざのときのために税務調査の内容や税務組織の実態を知っておく。そのことが結果としてあなたの会社を守ることにつながります。
国税が税務調査する対象者
税務署の調査では所得がある者を全て対象とする。そして、その対象者は法人と個人に分かれ次に該当する納税者が税務調査されやすい。
税務調査されやすい納税者
- 設立から3年以上経過する会社
- 前回の調査から3年以上経過する会社
- 確定申告書の数値で異常係数が目立つ会社
- 重加算税対象などの資料情報がある会社
- 前回の調査で重加算税対象となった会社
個人事業主の場合は上記に加えて消費税の課税事業者であると調査対象となりやすい。
設立から3年以上経過する納税者
黒字経営の納税者が選ばれることが多い。
前回調査から3年以上経過する納税者
以前に指導した内容が改善されているか確認するために税務調査されやすい。
確定申告書で異常係数が目立つ納税者
例えば、売上高が突然上昇したりまたは下降したりと異常な数値が確認できて、決算報告書3期で比較して異常係数だと判断されると、その原因を調べるために税務調査されやすい。
重加算税対象の資料情報がある納税者
税務署からのお尋ねや第三者からの密告などの資料情報があり、重加算税の対象となる見込みがあると判断されると税務調査されやすい。
前回調査で重加算税対象となった納税者
重加算税の対象となった納税者は過去の税務署の経験値からまた同じ過ちを繰り返すと判断される。したがって、3年おきに何度も税務調査されやすい。
国税が税務調査する手段と目的
国税の税務調査では調査手段により目的が異なる。主に任意調査と強制捜索の2つの調査手段に分かれ、それぞれ調査の目的が異なることが特徴である。
任意調査の目的
任意調査の目的は納税者が正しく申告しているか確認することである。
会計処理を人間がする以上はもちろんケアレスミスも発生する。そのミスのひとつひとつを法律違反としたら納税者の負担はどれほどのものか?法律違反が怖くて会社の経営どころではない。したがって任意調査では会計慣習や国税通達などの規範に基づいて税務調査が実施される。
世間一般でよく言われる税務調査はこの任意調査がほとんどです。
法律違反で調査が実施されないからと言ってペナルティーがないわけではありません。経理を操作して故意に所得を減らしたりすると重加算税を課せられるので気をつけてもらいたい。
強制調査の目的
強制調査の目的は法律違反する納税者を検察に告発することである。
強制調査は国税局査察部(通称:マルサ)が実施して、法人税、所得税、消費税などの法律違反を調べる。そのために裁判所に令状を請求して脱税などの証拠品や裏帳簿などを次々と押収していく。捜査令状が発行されるので税理士も何もできない。
ニュースでよく言われる○○税法違反はこの強制調査のことである。
脱税の罰則はそれぞれの税法で定められているが、基本的には10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑あるいは併科となる。脱税は罪が重いので気をつけてもらいたい。
国税の税務調査の内容と流れ
税務署が実施する任意調査ではまずは日程調整から始まる。そして、国税調査官が納税者のもとを訪問して申告もれの実地調査を行う。最後に調査結果で何も問題なければそのまま調査は終了となる。
仮に申告もれの指摘を受けた場合は国税調査官との見解の相違点を交渉する。交渉がまとまった時点で調査は終了となり期限内に修正申告書の提出と納税を済ませる必要がある。
これが税務調査の一連な流れとなる。
税務調査の日程調整
税務調査が実施されるときには事前に予告があるので、その際に税務調査の実施日を調整して日程を決定する。
顧問税理士がいる納税者は税理士が窓口となってくれるので納税者が税務署と直接やり取りすることはない。顧問税理士がいない納税者は自身で税務署と日程調整する必要がある。
ただし、次に該当する場合は予告なしに突然税務調査が実施される。
事前連絡なく調査実施されるケース
- 重加算税の対象となる行為があると想定される
- 小売店や飲食店など不特定多数の者と現金商売している
予告なしに突然に税務調査が実施されたら焦らずに顧問税理士へ連絡しましょう。そして、顧問税理士が対応するまでは調査を開始しないように待ってもらいましょう。
実際の税務調査の内容
実際の税務調査の流れと調査内容は以下のとおりになる。顧問税理士がいる納税者では調査中は税理士が会社に常駐して対応してくれる。
1.代表者のヒアリングから開始
最初に国税調査官は納税者からのヒアリングを実施する。
なぜ、最初にヒアリングが必要なのか?それは確定申告書や会計帳簿だけでは分からない情報を納税者から聞きだすためである。
国税調査官は世間話しや雑談を交えながら人当たりよく会話してくる。事前に想像していた税務調査のイメージと違うので気が抜けてしまう納税者も多いようです。これは国税調査官の作戦であるのでついつい話しに乗せられて喋らないように注意しましょう。
最初のヒアリングで話した内容が税務調査の終盤まで問題になるケースが多い。気を抜かずに警戒心を持って慎重に答えることが肝要となる。
2.会計帳簿や信憑書類の調査
国税調査官は最近3期分の会計帳簿と信憑書類を調査する。
特に調査官が気になる取引に当たりをつけて取引の内容や実態について質問される。質問を受けたときは、直ぐに分かる質問であればその場で回答して、直ぐに分からない質問であれば焦らずに調べてから回答すれば問題ありません。
よく調査される内容
- 売上高の除外はないか?
- 架空の仕入高はないか?
- たな卸資産に誤りがないか?
- 役員報酬が定期同額か?また過大でないか?
- 役員賞与が事前届出どおりであるか?
- 架空の給与や賞与がないか?
- 架空の外注費はないか?
- 販管費で家事使用はないか?
- 雑収入や雑損失に過年度取引はないか?
- 消費税の課税区分に誤りがないか?
その他にも実際に納税者の取引先や取引銀行に行って取引の実態を調べることがある。それは納税者の説明だけでは事実関係がはっきりしないときに実施され、それを反面調査と呼びます。
実際の反面調査で架空取引だと発覚する納税者も多い。そのときは故意に所得を減らしたと判断されるので重加算税を課せられる覚悟をしましょう。
3.国税調査官と見解の相違
納税者が正しい会計処理だと思っても調査官がその会計処理を指摘することがある。その会計処理の取扱いについてお互いに意見が対立した状態を見解の相違といいます。
以前にお笑い芸人であるチュートリアルの徳井氏が税務調査を受けたと報道があった。
そのときに国税調査官から腕時計の購入代金は会社の経費には当たらないと指摘を受けた。しかし、芸能人という職業柄で考えると腕時計は衣装であり、芸能活動するうえで必要な経費だと判断できる。
このように納税者と調査官で意見が対立する。これが正に見解の相違の状態である。
実際の税務調査ではいろんな取引で見解の相違が生じる。最終的には調査官と話し合いのうえお互いに落としどころ見つけることになる。
4.税務調査の終了
税務署の調査日数は通常2日間であり調査結果に問題がなければそのまま終了となる。
見解の相違があったときは税理士が調査官と交渉して落としどころをまとめた後に修正申告書を提出をもって終了となる。また、納期限までに必ず修正税額を納付することも大切となる。
見解の相違で国税調査官の指摘に納得しない納税者もいる。
そのときは税務署からの更生決定の通知を待つことになる。更生とは税務署が職権により課税処分を強制的に実行する手段である。納税者にとって不利益な処分が行われるときには更生の理由が附記される。
この更生の理由を受けても納得がいかないときは「税務署に異議を申し立てる」または「国税不服審判所への不服申立をする」のどちらかを選択して実行する必要がある。
税務調査には税理士が必要
実際の税務調査の対応は納税者だけでは難しい。
会計慣習や国税通達などの知識や調査官との交渉経験がないからである。したがって、税務調査の対応は税理士に依頼するのが必須だと考えます。
顧問税理士がいる納税者であれば問題なく税務調査の対応を依頼できるが、自分が契約する税理士が必ずしも税務調査が得意だとは限らない。
仮に税務調査の対応が頼りなく不安があると判断されるときは、税務調査が得意な税理士を探してセカンドオピニオンで調査に参加してもらう方法がある。追加で料金が発生するが修正税額などを考慮すると結果として安くつくことが多い。
個人事業主やフリーランスは顧問税理士がいない場合が多い。今後の税務調査が入ることを想定して事前に依頼できそうな税理士を見つけることができれば安心だと思います。
税務署という国税組織の実態
税務署は国税局の下部組織である。
国税職員は国税局を本店と税務署を支店と呼んでいる。日頃から企業との折衝が多い職業でもあるので、民間のサラリーマンに近い感覚を持つ方も多いのであろう。
また、税務署には民間企業と同じように年度の定めがある。
その定めでは7月1日から翌年6月30日までの1年が事務年度と呼ばれ、更に上半期と下半期の2期に分かれて運用されている。
税務署の事務年度
- 上半期:7月1日から12月31日
- 下半期:1月1日から6月30日
ちなみに人事異動は上半期の7月上旬ころであり、それぞれが新しい税務署へと配属される。
実はこの事務年度が税務調査の動きに深く関係してくる。
具体的に言うと国税調査官は上半期の成績が勤務評定に大きく影響するので上半期の税務調査は厳しくなる傾向が強い。それは増差税額という成績を必死に上げるためである。
下半期は税務署が計画した調査処理件数の目標消化に充てられので、逆に下半期の税務調査は厳しくならない傾向がある。それは税務調査の件数さえ消化できればよいためである。
実際に税務調査の時期が上半期と下半期のどちらなのかを決めるのは会社の決算日である。
上半期に税務調査が実施される会社は会計年度を変更して、下半期に実施されるように決算日を変えるのもアリだと考えます。
実は税務調査にとって会社の決算日はとても重要だったのです。
国税の税務調査のまとめ
税務調査が実施される確率は3%なのであまり気にする必要がないという人もいる。
しかし、実際に税務調査が多いのは黒字経営の会社であり10社のうち1社の割合で税務調査が実施されるのが現実である。そのような状況下で税務調査の流れや内容を正しく理解することは会社経営の隠れたリスク対策となる。
また、わたしたちは税務調査の負の側面ばかりに目が行きがちである。
もっと税務調査のメリットに気がつかなければならない。そのメリットとは税務調査を通じて従業員の不正経理が見つかることである。
経理担当者の横領よくニュースで報道されてませんか?
経理担当者が会社の現金を数億円も横領してキャバクラで散財したなんて話しである。実は横領の発覚は税務調査で見つかることが多いのです。
多くの会社経営者は売上をあげることに必死となり経理への関心が薄くなりがちである。
特に経理の担当者に全て任せっきりになるとお金の流れも分からなくなる。そして知らないうちに横領されるケースが多いのです。
会社の健全化を保つためにも定期的に税務調査が来て欲しいと望む経営者も多い。それだけ経理担当者の横領問題は大なり小なり切実な問題なのかもしれない。
税理士ドットコム
あなたに合った税理士を探すための必勝サイト!無料で使える税理士ドットコム♪
コーディネーターが最適な税理士を何度でも紹介してくれます♪
完全無料でご利用できます★登録税理士が全国で6,000名以上★税理士報酬の引下げ実績70%以上★上場企業が運営しているので安心★
これであなたも大変な税理士探しから解放です!